野蛮なお姫様でありたい話

 

 

ヴィラ・ヒティロヴァ監督の「ひなぎく」を見返そうと思ってDVDをとりだしたら、中身がウイルスバスターのソフトになっていた。元のところにきちんと返さない自分が悪いのだけれども、見る気満々だったので落ち込む。

 

ひなぎくチェコ映画なんだけれど、人生で最も好きな映画だと思う。私がまだ少女だった時代、名画座で見たのがきっかけだ。「少女の自由気ままないたずら」をテーマにしたこの作品は、一方で自由であることの難しさを描いてもいて、わけもわからないまま最後のエンディングにぼろ泣きした覚えがある。その政治的背景や難解な表現は当時女子高生だった私にとっては重要ではなく、とにかく言語化が難しくてずっと悩んでた部分、誰にも言えない心のいちばん柔らかな部分をぴたりと言い当てられた気がしたのだ。それがとほうもなく、感情を溢れさせた。

 

名画座を出た後の中央線の商店街はにぎやかかつ穏やかで、現実のほうが映画のセットのように見えた。庶民じみた道を歩きながら「この物語はいつになったら終わるのだろう」と思った一瞬が、今も胸にこびりついている。当時の私は自意識の塊で、澁澤龍彦をミーハーに愛読し、矢川澄子森茉莉二階堂奥歯あたりに今以上に憧れていて、自分こそが特別なのだと信じて疑わなかった。

 

結局のところ、私は凡人どころか凡人以下だったわけだけれど、あの時の身の程知らずな無敵さはちょっと見習いたいなと思っている。脆さを痛感しているからこそ、せめて知識とかコスメとか洋服とかで武装していきたい。現実に立ち向かってく野蛮なお姫様でありたい。とにかくアグレッシブな感じ。転んだあとのこととかは今はあんまり考えたくない。

 

今日読んでた古い雑誌(30年とか40年くらい前のBRUTUS)に山口小夜子のインタビューが載っていて、黒いレースに身を包む彼女が「着飾れば着飾るほど憧れに近づく気がした」みたいなことを言っていた。わかる気がして、うんうんと頷いた。

 

相変わらず乙女でいたいし、お姫様にもなりたいし、博識にもなりたいし、気品さも身に着けたい。結局のところ、図書室で童話を読みふけってたあのころとあんまり変わらないのかもしれない。

 

人生いやになることがここ最近多く、特にコロナで気分もふさぎがちだけれど、その分美しいこと楽しいことを少しでも拾うようにしてなんとか過ごしていきたいと思う。そのためにも自分をかわいがって、人と助け合って生きていきたいですね。